Common’s Sense

播摩 光寿

語学よりも専門を磨け

播摩 光寿

日本の古典研究の第一人者であり、大学や予備校、カルチャースクールなどで教鞭をとられている播摩先生。
前回はセンター試験についてお話を伺いました。今回はグローバル化と古典についてお聞きします。

(取材・文/古川紗帆)

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― ここからは、少し話題を変えて、日本の古典・伝統文化を海外にどう伝えていけば良いのかということについてお聞きしたいと思います。日本人というか、私自身を含め若い世代は、古典や伝統文化について海外に伝える以前に、それらについてよく知らないのではないかなという実感があるのですが、先生はどう思われますか?

 40年以上前に東京の高校で教えていたとき、高校2年生でアメリカに留学に行った教え子がいたんだ。その子は留学前には「とにかく英語を学びたい」と言っていたんだけど、留学から帰ってきてからは「古文と日本史を勉強したい」って言うようになったの。それで「君、どうしてそんな風になっちゃったの?」と聞いたら、「日本人として海外に留学したら、向こうの人たちが聞くのは、日本のことばかりだったから」って言うわけ。日本の歴史とか古典・文学などについて答えられない自分に気づいたんだって。そのギャップっていうのは、未だにあるような気がする。


― 海外に行って初めて、外ではなく自分の国の文化に目が向いたんですね。

 本人は英語を学びたかったのにね。別の気づきがあったわけだ。「歌舞伎って見たことある?」って聞かれて「よく分かんないや」って答えたら、「本当に日本人なの?」って思われてしまうよね。海外の人と関わる機会が増えているのに。


― 所謂グローバル化というか、直接会わなくてもネットなどで簡単に海外の人とつながれますよね。

 国際化とかグローバル化って言うと「まずは語学を、英語教育を」っていう風潮があるけど、僕の考えでは、それは間違ってると思う。語学よりもまず、誰にも負けない専門を持っていることが大事なんじゃないかな。強力な専門分野があれば、外国の人の方から教えを乞いに来るから。他国の人がそれを本当に知りたくて聞きに来るときっていうのは、日本語を勉強して来るか、通訳を連れて来るから、英語を喋れなくてもさほど問題はないんじゃないかな。英語を勉強している暇があったら、自分の専門的なことをとことん磨いていった方が良いように思うよ。