週刊東洋経済 2019年7月8日号(No.1998)

担当:塩谷 碧紀(上智大学4年生)

表紙

時事深層 『LINEが信用スコア事業開始も 集める顧客情報が「控えめ」な理由』p.20

 LINEは個人の信用を点数で可視化するサービス「LINE Score」を6月27日に始めた。
通話アプリ「LINE」のユーザーを対象に、100から1000の間で信用力を測定。ユーザーはそのスコアに応じてLINEグループの金融サービスや提携企業からの優待を受けられる。スコアはLINEが提供するモバイル決済サービス「LINE Pay」の利用状況に加えて、生年月日や性別、住宅の所有状況、勤続年数、企業規模、年収など15の質問に回答してもらうことで算出する。6月27日の事業戦略説明会で出澤剛社長は、メッセージや通話の内容をLINE側が閲覧することはないと強調した。
強調する背景にあるのは個人情報の収集に対するユーザーの根強い不安だ。ただ、情報を幅広く集めなければ信用スコアの正確性や信頼性は高まらず、提携する企業を集められない。一方で説明が不十分のまま多くの情報を集めれば、ユーザーの不安を招く。
LINEはプライバシーに配慮しつつ、いかにしてスコア事業のための個人情報を集めるか注目が集まる。

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特集 『再考 持たざる経営』pp.32-51

 バブル崩壊を経て、「在庫は悪」というフレーズが経営者の間に広まった。在庫の管理コストが経営を圧迫すると考えるからだ。そのため、在庫を「持たない」経営に重きが置かれている現状がある。しかし、ITの進化や人口動態の変化はそんな常識に転換を迫りつつある。明確な意志と戦略があれば「持つ」ことが経営を助けるという。
ラジコンカー業界2位の京商は、二年前まで在庫管理コストが年間1000万円かかっていた。コストを抑えるため、在庫を「現在も販売可能なもの」「顧客サービスの維持に必要なもの」「滞留する可能性の高いもの」などの基準で5つに分類。自社で残す在庫と、処分・売却する在庫に分けた。その結果、6割の在庫を「必要なもの」と確信を持って残すことができた。リアルタイムで在庫を管理するシステムの開発で、経営を回復させたのだ。
環境変化が激しくなる中で、在庫に関するこれまでの常識が変わろうとしている。

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Special Report 『「観光立国」を阻む壁 訪日客6000万人は幻か 日本むしばむ「観光公害」』pp.60-63

 18年に訪日客が初めて3000万人を突破した。観光立国を目指す安倍政権は、訪日客を20年に4000万人、30年までに6000万人に引き上げる目標を掲げている。訪日客により地域が活性化する例は多いが、それと引き換えに日本各地で急増する外国人観光客によるトラブルも相次いでいる。
京都市祇園は世界中から訪れる外国人観光客で連日ごった返している。祇園は伝統に裏打ちされた落ち着いた街のたたずまいが崩れていく「観光公害」の被害を受けているのだ。外国人の多くに、建物に勝手に上がり込んできたり、舞妓を取り囲んだりする悪質なマナーが横行しているという。京都市は法令とマナーの順守を呼びかける実証実験を3か月間実施することを決めた。観光ルールをまとめたエリアメールを配信したり、多言語対応可能な巡視員を配置したりする。
「観光公害」の問題には外国人観光客を排除するのではなく、共生していくための知恵を持ち寄ることが求められている。

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時事深層 『LINEが信用スコア事業開始も 集める顧客情報が「控えめ」な理由』p.20

サマリー

 LINEは個人の信用を点数で可視化するサービス「LINE Score」を6月27日に始めた。
通話アプリ「LINE」のユーザーを対象に、100から1000の間で信用力を測定。ユーザーはそのスコアに応じてLINEグループの金融サービスや提携企業からの優待を受けられる。スコアはLINEが提供するモバイル決済サービス「LINE Pay」の利用状況に加えて、生年月日や性別、住宅の所有状況、勤続年数、企業規模、年収など15の質問に回答してもらうことで算出する。6月27日の事業戦略説明会で出澤剛社長は、メッセージや通話の内容をLINE側が閲覧することはないと強調した。
強調する背景にあるのは個人情報の収集に対するユーザーの根強い不安だ。ただ、情報を幅広く集めなければ信用スコアの正確性や信頼性は高まらず、提携する企業を集められない。一方で説明が不十分のまま多くの情報を集めれば、ユーザーの不安を招く。
LINEはプライバシーに配慮しつつ、いかにしてスコア事業のための個人情報を集めるか注目が集まる。

レビュー

 中国のアリババ集団が展開する「芝麻信用」はユーザーの年齢や学歴、職業、交友関係までも一企業に預けることになる。個人情報の収集に対する不安が高い日本では類似するサービスは展開が困難であると考える。ただ、LINE Scoreは芝麻信用に比べ、収集する個人情報の範囲を狭めているので、現状であればユーザーの不安は高まらないようだ。
 しかし、LINE Scoreを軌道に乗せるには現在収集されている個人情報だけでは足りないだろう。そもそも当該スコアの算出方法に、住宅の所有状況、勤続年数、企業規模、年収などがあるが、これらは全て自己申告によるものである。正確か否かの確認がとれない情報に価値はあるだろうか。また、LINE Payを活用するにしても、普及が進んでいないサービスから取得できるデータには限りがある。
 LINE Scoreの現状を見ると、日本において信用スコア事業が普及する未来は遠いと考える。

特集 『再考 持たざる経営』pp.32-51

サマリー

 バブル崩壊を経て、「在庫は悪」というフレーズが経営者の間に広まった。在庫の管理コストが経営を圧迫すると考えるからだ。そのため、在庫を「持たない」経営に重きが置かれている現状がある。しかし、ITの進化や人口動態の変化はそんな常識に転換を迫りつつある。明確な意志と戦略があれば「持つ」ことが経営を助けるという。
ラジコンカー業界2位の京商は、二年前まで在庫管理コストが年間1000万円かかっていた。コストを抑えるため、在庫を「現在も販売可能なもの」「顧客サービスの維持に必要なもの」「滞留する可能性の高いもの」などの基準で5つに分類。自社で残す在庫と、処分・売却する在庫に分けた。その結果、6割の在庫を「必要なもの」と確信を持って残すことができた。リアルタイムで在庫を管理するシステムの開発で、経営を回復させたのだ。
環境変化が激しくなる中で、在庫に関するこれまでの常識が変わろうとしている。


レビュー

 GMS(総合スーパー)のダイエーは積極的な投資により土地、店舗、人員を確保する「持つ経営」を行ってきたことで知られている。高度経済成長期は「投資が投資を呼ぶ好循環」と、持つための投資が評価されてきたが、バブル崩壊後は管理コストを嫌う企業が増加し、投資の好循環が断ち切られた。持つ経営の代表格であるダイエーは、経営不振にあえいだ失敗例として認識されているが、今後は逆に「持たざる経営」よりも「持つ経営」が評価される可能性があると考える。
 「持つ経営」と言っても対象の範囲が広いので、ここでは人員に絞って考察する。生産年齢人口の減少により人手不足が顕著であるため、企業としては辞める可能性が高いアルバイトよりも正社員を採用したいと考えるはずだ。平成29年度の厚生労働省の調査によると、平均離職率は正社員が11.6%であることに対し、アルバイトやパートは25.5%と高い。企業としては正社員を採用することで、簡単にリストラできないリスクを抱え、さらに人件費という固定費の増加が生じることになるが、それでも人手不足の時代には戦略に基づいた「持つ経営」が評価されるだろう。

Special Report 『「観光立国」を阻む壁 訪日客6000万人は幻か 日本むしばむ「観光公害」』pp.60-63

サマリー

 18年に訪日客が初めて3000万人を突破した。観光立国を目指す安倍政権は、訪日客を20年に4000万人、30年までに6000万人に引き上げる目標を掲げている。訪日客により地域が活性化する例は多いが、それと引き換えに日本各地で急増する外国人観光客によるトラブルも相次いでいる。
京都市祇園は世界中から訪れる外国人観光客で連日ごった返している。祇園は伝統に裏打ちされた落ち着いた街のたたずまいが崩れていく「観光公害」の被害を受けているのだ。外国人の多くに、建物に勝手に上がり込んできたり、舞妓を取り囲んだりする悪質なマナーが横行しているという。京都市は法令とマナーの順守を呼びかける実証実験を3か月間実施することを決めた。観光ルールをまとめたエリアメールを配信したり、多言語対応可能な巡視員を配置したりする。
「観光公害」の問題には外国人観光客を排除するのではなく、共生していくための知恵を持ち寄ることが求められている。

レビュー

 少子高齢化が急速に進み、国内の産業が成熟している日本において、訪日客の増加は更なる成長をもたらす起爆剤として歓迎されている。訪日客の増加は消費の活性化だけでなく、日本文化を愛する「日本通」の増加に拍車をかける。また、日本が好きになった外国人が日本への投資を試みるかもしれない。訪日客の増加は「良いことずくめ」であるからこそ、訪日客の受け入れ問題は議論する必要があるようだ。
京都市祇園の例をみると、地域住民の生活を維持するには一定の制限を設けるべきだろう。エリアメールの送信や巡視員の配置は一時的に「観光公害」を食い止める可能性はあるが、根本的な解決には至らない。祇園は観光客でパンクしているのが現状だ。ただでさえ一部の観光地がパンクしている中、30年までに訪日客を6000万に引き上げるという目標が観光地にとっていかに恐ろしいかが理解できる。
産業が乏しく、過疎化が進んでいる地域では、訪日客による観光が地域を活性化させる唯一の方法だろう。政府は目先の数値を追わずに、増えすぎた訪日客を地方に分配させることに注力すべきだろう。